御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×合田隆信」 第6話

先日、復活特番となった『学校へ行こう!』をはじめ、『ガチンコ!』など、アイドルが全力で取り組むバラエティを数々成功へと導いた合田隆信さん。彼は芸人バラエティを潰した戦犯だったのか?その背景にはTBSが抱えていたジレンマや、芸人に対するコンプレックスや憧れなどがたくさん渦巻いて……!?本音で語られる失敗談も含め、胸を熱くするお話がいっぱいです。
取材・文/サガコ

インタビュー

第5話

2002.01

アイドルバラエティとお笑い

高須

ゴウちゃん、テレビ番組に一番必要なことって、
何だと思う? 何が大切? 何が一番?
数字ではなく、つくるものの質というか、中身や作品として捉えるならば。
いきなり、漠然としたことを訊いて、なんなんですけども(笑)。

合田

いや、でも大事なことですよね、それ。
何かな…。
曖昧な言葉ですけれども、『視聴者へのサービス精神』ですね。
今現在のテレビってモノに対する、僕の強烈な考えがあるんです。
それは、「放送文化」で小松さんとの対談でも言いましたけど、
「視聴者はもう、テレビを真面目には見ていない」と。

高須

うんうん。

合田

真面目に見ていない以上は、作品をつくる、なんて思考回路で
つくっちゃいけない、と。
一定の時間が来れば、自動的に番組が始まって、自動的に番組が終わる。
映画とは違いますよね、お金も払うわけじゃないですし。
ということは、どの時間からテレビのスイッチを入れたとしても、
どっちにしたって一生懸命見てるはずがないんですよ。
開始時間の決まってる映画には、決まった時間に映画館に行くでしょう。
だけど、今、そうやってテレビを見てる人間がどれほどいるかと
言われたら、そんなにいないですよ。
そうやってでも、どうしても見たい!っていうものに対しては、
今度は人はビデオってものを持ってますからね。
タイマーセットして出かけてしまえば、その時間に視聴者は
番組を見ない。そうすれば、視聴率にはカウントされない。

高須

最悪やな。

合田

ただ、それでも闘いはあるんですよね、テレビですから。
一つの時間にテレビをつければ、いくつかのチャンネルで
複数の番組をやってる。その上で、選ばれなくちゃいけない。
だとしたら、テレビを作る上で必要なのは、
「一度、僕らの番組っていう席を選んだ人達を
その時間の間は席を立たせない」ってことです。
そういうゲームかな、と。
ゲームって言葉も、あまりよくないかも知れないですけど。
「おもしろい番組だったら人は見る」と言う人がいますけど、
僕はそんなの有り得ないと思います。
そんな甘いことではダメなんです。視聴者はそんなに甘くありません。
少なくとも、僕はそう思ってます。
だから、とにかく「この番組は席が立ちにくいなぁ」とか、
「この番組はチャンネルが変えにくいなぁ」っていうことを
必死で考える人が、優秀なテレビマンだと思います。
けれど、その優秀なテレビマンが、
必ずしも優秀な演出家・ディレクターであるとは言い難いでしょうけどね。

高須

なるほどね。

合田

僕よりも優秀な演出家と言われたら、杉本さんも片岡さんも、
田中経一さんも、みんな優秀だと思います。
ただ、僕はそことは闘えないっていうか……。
とても中途半端なんですよね。
けど、番組作りを「視聴率争奪ゲーム」と単純に考えるなら、
高須さんの質問への僕の答えは
「席を立たせない番組をつくろうと思い続けること」。
僕は、それを考えづけてきて『ガチンコ』っていうのが、
まずは一つの答で出たんですけどね。
若いディレクター達には、
テレビがおもしろいからテレビを見てるっていう、
視聴者への幻想は捨てろ、と僕は言い続けてますよ。

高須

都築くんが言ってたなぁ……『ガチンコ』のこと。
会議していて、僕ら作家が企画を出す。
そしたらディレクターから言われるんだ、と。
「うん、おもしろい企画だと思います。
だけど、これは数字が取れませんからやめましょう」と。
それってすごく明確な判断基準なんやよなぁ、俺らにとっても。
「それ、おもしろい企画ですよねぇ! うーん、どうかなぁ、
どう撮ったらいいのかなぁ」って見えないディレクターと
延々会議をしてしまうと、それから先も、
そのディレクターに対して、番組に対して
一体どんな企画を出せばいいのか、ある意味効率的ではないやんか。
だけど、どこに重きを置くかっていうのが明確であれば、
それは仕事として、すごく楽になれるのよ。

合田

それはそうでしょうね。

高須

ゴウちゃんが、今34歳でね。『ガチンコ』も当てて、
これが自分の形だってものも確立できたよね。
じゃあそれは、自分がこの世界に入ろうと思った若い頃に見ていた
バラエティのように、憧れたものなのかな?

合田

というと?

高須

俺らがテレビつくりたい! おもしろい番組作りたい! と思って、
小さい頃見てた、お笑い番組やバラエティがあったやんか。
俺にしたってそうやし、今のこの世代のテレビマンとか作家達って
ほとんどそうだと思うんやけど、
みんなおもしろいバラエティをテレビで見て、
「お笑いっておもろいなぁ~!」って思って、自分もそう言うのを
つくりたいと思ったからこの世界に飛び込んできたわけやんか。

合田

そうですね、それはそうです。

高須

だけど、今オレ達が実際につくっていってるものは、
その想いにどれほど近づいているのかなぁって。
絶対、離れていってしまってるやん?
さっきの会議の話にしたって、
そういう会議がいいな、仕事として効率的だなって
思ってしまってる自分がいるわけやしね?

合田

……離れていってますね、最初の想いからは、確実に。

高須

それは、しょうがないことだと思うよ?
そういう場がないし、数字取らなければどうしようもないんだから。
でも、そろそろオレ達はその姿勢を、
いいかげんに変えないとだめなんじゃないかなぁ? どう思う?

合田

……なるほど。

高須

極端にそうしましょ、ってわけじゃないよ?
「作品だぜ!」ってものを、いきなりつくろうっていうんじゃない。
テレビを面白がってくれてる人達が、その番組を見て、
「あ、俺もこういうの作ってみたい!」って思ってくれるような、
骨太な番組っていうのかな……そういうのを作りたいっていうか。
これはまぁ、自分がお笑い好きやからこだわってしまってるだけなのかも
しれへんけどね。

合田

いや……その事については、僕も考えることがあります。
このくらいの立場になってみて、今、余計に。

合田

……僕にもいつか「笑いをやろう」っていう気持ちは、
あるというか…あったというか。
変な言い方になるのを承知で言いますけど、
僕は今、ほら、アイドルバラエティの親玉みたいなところで
扱われたりするじゃないですか。
アイドルバラエティを育ててきたことで、芸人達の場所を
奪った、みたいなことですよ。そりゃもう、一種のA級戦犯ですよ。

高須

そんなことはない! 戦犯って言い方はおかしいよ。
だって、アイドルの子達は頑張ってるもん。
みんな、尋常じゃなく努力して「バラエティ作ろう!」って
必死になってるやんか。その結果でしょ?

合田

そういう意見もあるでしょう。だけど、世間的に見たら
戦犯として捉えられなくもない立場にある、というのも、
それはそれで事実なわけですから(苦笑)。

高須

まぁ……うん……。

合田

でも、僕はこんな風に信じてるんです。
お笑い界からは、アイドルバラエティみたいなのが
増えてきた今だからこそ、革命を志すヤツが出てくるはずだって。
こんな状況だからこそ、覆してやるという芸人が
出てくるんじゃないかと思うんです。
ダウンタウン、とんねるず、ウッチャンナンチャン以降の芸人達が
だらしなかったから、今みたいな状況になってしまったってことも
絶対にあるわけですからね。
僕が戦犯になることができた、って考え方も無いこと無いでしょう。

高須

なるほど……。

合田

「お笑いはおいしい」と思ってこの世界に飛び込んで、
その気持ちでやってきてしまった人間ばっかりなんだと思うんです、今。
安住してしまったんですよ、先人達の築いた価値観の上へ。
それに比べたら、ジャニーズに所属してるアイドルの子達の方が、
何倍もハングリーだった。だから、今がある。
お笑いの状況は、いま確かに最悪でしょう。
でも、最悪な状況だからこそ、すごいヤツが出てくるだろうと
僕は思っているんです。
これは、芸人に限らずディレクター達にも同じ事を言いたい。
笑いの撮れるディレクターが少なくなったって言いますけど、
「今こそ!」って人間がきっと出てきます。
もう僕なんかは、今の自分のやってることが好んでやってるかどうかとか、
良いか悪いかなんてどうでも良くなっちゃってますからね。

高須

どうでもいい、って言えるとこまで来たんやぁ……。

合田

だって、これはもう戦争でしかないんだ、と思ってますから。
お笑いVSアイドルバラエティの戦争です。
具体的に、僕が一番卑怯な手を使ってお笑いを痛めつけているのは、
『US O!?ジャパン』でしょうね。

高須

『めちゃイケ』の裏だよ、俺の裏(苦笑)。

合田

真裏ですよ(笑)。
あれって、自分の中ではものすごく恥ずかしい戦争なんですよ。
僕はスタッフ達にいつも、
「これはベトナム戦争やからな」って言いきかせてます。
『めちゃイケ』はお笑いでアメリカ、
『US O!?ジャパン』はアイドルバラエティのベトナムです。
僕らが土曜八時で闘ってる今っていうのは、
ベトコンが、沼の中から出てきて後ろから襲いかかり、
アメリカ兵の首をバッサリとかき斬る、みたいなことだと。(笑)
だけど、所詮アメリカとベトナムでは国力が違いますよね。
どれだけ戦争が泥沼化したとしても、国力の低い側の国に
最終的な勝利が訪れるはずはないんです。

高須

そんな哀しいことを……(苦笑)。

合田

お笑いはお笑い、
アイドルバラエティはアイドルバラエティでしかないんです。
そこは絶対、僕らがどれだけ頑張っても、覆りません。
それが分かっていても、
僕らが土曜八時のあの枠で数字を取ろうと必死になって、
『めちゃイケ』を痛めつけるのは、これがもう戦争だからです。
どんな手を使おうと構わない。
そりゃ僕にだってプライドはありますよ?
数字取るためにどんな手でも…って言ったって、小動物使ったり、
ラーメン屋巡りしたりっていうのは、さすがにダメですよ?(笑)

高須

そりゃそうだ(笑)。

合田

だけど、それ以外に関しては全部プライド捨ててます。
勝たなきゃならないんですから。
で、それは僕だけがやってればいいことでもあるんです。
もう綺麗事かも知れませんけど、僕の下のヤツらには
正統派のバラエティ作って欲しい、笑いをつくって欲しいです。
その可能性も残してやりたいと思ってます。
だけど、僕はもう、ダメなんです。
覆らない戦争のなかで、勝つだけで精一杯で……。

高須

……うーん。

合田

もう十年、このスタイルでやってきました。
十年ずっとやってきて、正直、革命への意識っていうのは
薄れつつあります。
高須さんが言うような、笑いへの革命っていうか、
「思い出そうよ、あの頃の情熱を」っていわれると、
胸は痛むし、やりたいなって気持ちが思い出せるんですけどね……。

高須

いや、ゴウちゃん、それは今、ほとんどの作家もそう思ってるって。
俺の情熱どこへ行ったんやろうって、みんな苦しんでるよ。
自分たちのしでかして来た事を悔やんだりしてる。
笑いが好きで、芸人が好きでってこの世界に飛び込んだ自分は、
一体どこへ行ってしまったんだろうって。
一方でテリー伊藤さんは今でも「おもしろいものしか作りたくない!」って
深夜番組作り続けてるし、日テレの土屋さんも
「俺はお笑いしかやらない。『電波少年』はお笑い番組だから」って
言い続けてるのよね。
そういうのを見たり聞いたりすると、俺は胸が痛い。
だって、俺がつくってるモノの中にはお笑いではないものもたくさんあるから。
だから、自分の基準値をもう一度設定し直さないとって、
今頃になって遅いかも知れないけど、思い始めてるのよ。

第6話へつづく

ディレクター

合田隆信 さん

1967年石川県生まれ
1990年TBS入社
学校へ行こう、ガチンコ!、さんまのからくりTVなどの演出•プロデュースを経て
現在バラエティー制作二部長

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