御影屋

高須光聖がキク「高須光聖×藤井健太郎」 第6話

まだ入社1年目の新人ADが出した企画がまさかの採用。いきなり初プロデューサー&初ディレクターを兼務しながら他の番組では底辺のAD業務の日々。記念すべき初番組の作家にと白羽の矢がたったのが、なにを隠そうこの私。まさかのオファーに戸惑いながらも、なんか面白そうだったので引き受けることに。その時の縁が巡り巡って、一緒に番組をしている。今最も芸人に信頼されているディレクターになった彼とテレビの熱い対談が始まる。
※この対談は2016年9月7日に収録したものです。

インタビュー

第6話

2018.01.21

複雑化する、近代テレビのテクニック

高須

こんなこと言うとややこしい話すぎるかな・・・

藤井

なんですか?言ってくださいよ。

高須

いや、演者がさ「時代やな~、テクニックやな~」って思うのは、昔は、カンペを出ても、嫌なものは無視してやり過ごす人が多かったけど今は「ディレクターがこういうのを求めてんだな~」ってそれを受け入れてやってくれる芸人さんが多い。
もちろん理解してスッと行くときもあれば、「俺はそうじゃないねんけど、演出上やってる」って時にこの顔。(目を細めながらカンペを見る)色んな芸人さんがやる。
まぁ、なんかあったら「(目を細めながらカンペを見る)
・・・ええっと~?」って「俺じゃないよ感」のテクニック出すやん。
対テレビを見ている他の芸人に対して。

藤井

もう一歩言えば世間にもある程度。

高須

でも本当は「俺やないよ、俺やったんやないよ、これ制作にやれって言われてるからね」って、ちゃんと保険打って来る。
あれは技術やなー、と思って。
昔の芸人さんなら、「やりたくない」なら勝手に飛ばしてたと思うわけこれも、近代テレビの、芸人さんがそれを嫌がる技術やなーって。

藤井

有吉さんが『有吉反省会』の「禊」のやつでやってるイメージありますね。

高須

ああ、そうね。

藤井

上手だなとは思いますけど。

高須

(例の表情をしながら)え~っと?はいはいはい感ね

藤井

「禊は〇〇でーす」と。
それはやっぱり、「禊を考えてるのは俺じゃねーぞ」って言う。

高須

そうね。ただ芸人さんの面白がることと、番組が必要とすることが必ずしも一緒じゃないから難しいよね。

藤井

そうですね。複雑化してますよね。

高須

複雑化しているよ!

藤井

そうですね。再ブレイク中、ぐらい。   

「GO!ピロミ殺人事件」 「松島トモ子の走馬燈」

高須

これまで自分がやった中で「あれは面白かったなー、あれは傑作だったなー」ってそんなものってある?

藤井

(しばらく考えて)
前にやってた『クイズ☆タレント名鑑』の中で「GO!ピロミ殺人事件」っていう企画があって。

「モノマネ芸人いる?いない?クイズ」ってコーナーでGO!ピロミっていうモノマネの人が毎回最後に指名されて登場するってお約束があったんですね。

高須

本当はいるとわかっているけども。

藤井

「いるかいないか?」ってクイズからはちょっと外れるんですけど(笑)
で、その「GO!ピロミ殺人事件」ってのはいつものように最後に指名されたGO!ピロミが登場するときに「バターン!」って音がして、幕が開いたらステージ上で倒れていて。
みんなが「どうした?どうした?」「いったん止めます」ってザワザワってなったら「GO!ピロミ殺人事件」ってタイトルが出て、そこからドラマになだれ込むんですよ。

高須

なるほど。

藤井

最後に指名されるっていうのがお約束になっていたからそれを利用して、オンエアの前半は普通にモノマネ芸人のクイズをやって、そこから後半はドラマになっているっていう。
MCの淳さんには言ってあったんですけど、パネラーには何も言ってなかったので、みんなGO!ピロミが本当に倒れたと思っていて。

高須

なるほど。すごいリアルな顔見せる。

藤井

リアルな顔があるドッキリ的な要素がちょっとあって、そっから後半はもう、ドラマになるという。
で、ドラマの中で殺人が起きた理由とかも、実はバラエティブロックの方にフリがあったりして。

高須

なるほどー。好きやなーそんなん。
もうジュニアのあのイベント(『6人のテレビ局員と1人の千原ジュニア』)観て、「こんなん好きなんやなー」と思って。伏線好きやなー。

藤井

まぁそうですね。理屈っぽいのが好きなんですよね。

高須

わかるわかる。藤井の伏線好きはわかるわ~。
ちゃんと回収したいんやろ?

藤井

バラエティの方でこういう話があって、ドラマで回収して、で、最後に大オチがあるっていう。

そういうのって別に今でも思いつくし、多分出来るんですけど、当時の方が度胸はあった気がするなと思いますね。若さなのか。
急にドラマになるし、しかもドラマになるってオンエアでは事前に全く言わないし。
ドラマになったら数字すげぇ下がったんですけど(笑)

高須

(笑)そりゃそうやな。「何やってんねん」って思うで。

藤井

ドラマになったらほとんどモノマネ芸人しか出てこないし。

高須

でもやりたかったんやな。

藤井

やりたかったし、“面白くなる”って確信はあったんですよね。
で、やってみても、それなりに面白かったんですけど、やっぱり、そういう度胸みたいなのはちゃんと持っておかないとって改めて思いましたね

高須

そらそうやな。

藤井

若さで突っ走れる部分と年重ねてくると経験があるだけにビビッてくる所もあるじゃないですか。
でも、そこは持っておかないとなと。

高須

確かにねー。度胸と慎重さの二つをどう使い分けるかやな。

藤井

総集編とかも昔は食いすぎたメチャクチャな事やってるんですよね。
松島トモ子さんベースの総集編なんですけど松島さんがライオンに襲われそうになって、その走馬燈が総集編になってるっていう。

高須

あ~。ええやんか。
でも松島トモ子使うって古すぎるけどな(笑)
でもまぁ〜分かるよ。

藤井

で、オチは松島さんの走馬灯が終わった後に今度は、ライオンの方が松島さんを襲おうとした事でハンターに撃たれそうになって。

高須

今度ライオン目線になってくる。

藤井

で、ライオンの走馬燈で今度は告知が入る。

高須

メチャクチャやな!(笑)でも面白い。

藤井

今見たらヒドいんですけど、でも度胸はあるなと。

高須

でも松島トモ子を出す、って言うのが俺わかれへん。

藤井

(笑)

高須

だからさっきのその話は、松島トモ子の事知ってて。

藤井

松島トモ子は面白いって認識をなんかね。

高須

それ大昔の話やから今の若い人ほとんどわかれへんけど。

藤井

なんなら僕だって知らないですけど。

高須

なんとなく噛まれたなって面白さは。

藤井

誰かが言ってたんでしょうね、テレビの中で。
それを笑いにしていたからなんとなく知っていて、って事だと思うんですよね。だから、そんな面白のアンテナと、度胸みたいなものは持っておかないとな、と。

「細かい性格」とスケール

高須

自分の長所と言うか、ほかの人にない能力と自分が、かんたんに言うと人より劣っている部分、「こういう所が苦手やなー」って客観視した事ある?

藤井

うーん。長所はやっぱり細かいところですかね。

高須

ディティール詰めるのは、好きやなー。

藤井

性格も細かいですし。まぁ、単純に頑張れるかどうかだと思うんですけど。細かい所気にして直してとか。

高須

でも結局バラエティって細かさやから。
そこをどんだけ頑張って寝ずに一生懸命考えられるかやもんな。
「わぁ~、すごいなこの番組」って思うのはそこの差でしかないもんな。

藤井

逆にだからその、ちょっと「スケール感」みたいなものは苦手な意識がありますね。

高須

あー。そういう事か。

藤井

作りの細かいのは得意なんですけど。

高須

スケール感ね。そういうの得意な人もおるからね。
『SASUKE』みたいなのやろうって人も居る訳やんか。

藤井

なんかこう、派手な、スケールがあってっていうのには苦手意識があって。

高須

なるほどね。でもそれが言えるのはいいね。
ある種藤井って、テレビオタクやな。

藤井

オタク気質ですね。

高須

自分の手の届く範囲でものを作ってたいんやろうな。

ハライチ澤部とバイきんぐ小峠という芸人分析

高須

水曜日のダウンタウンのドッキリとか藤井らしいよな。

藤井

ああ、あれ。

水曜日のダウンタウンのドッキリ

逆逆逆…と逆ドッキリを重ねていったらどうなるか?という企画。 『水曜日のダウンタウン』2016年7月20日オンエア。

高須

あれ面白かったけどね。あの2人(ハライチ澤部とバイきんぐ小峠)だから撮れたところあるよね。

藤井

あの2人じゃなきゃダメだっていう。

高須

演者のポテンシャルを見極める能力って演出には必要やなって。
「この人にはコレええけど、同じように別の人にやらせると」「いやいや、出来へんで」って言う、流行りの芸人さんなら誰でもいいって考えの人も少なからずおるやんか?
違うねん!違うねん!この人のポテンシャルをいかに理解してるかでこの企画は決まるし、ハマるかハマらないかのキャスティングがあるのに、人気者ってだけで、簡単に言う人おるやんか!

藤井

それはそうですね、
僕が最初にクロちゃんに目隠しさせたのって別の番組での有吉さんおぎやはぎとの絡みだったんですけど、ホントにパッとの思いつきだし、そこに理屈なんてないわけで。
クロちゃん目隠しさせてスタジオに出してこんなこと質問したらこうやって返すはずだから、いけるなと。
でもクロちゃんで浮かんでるから、クロちゃんでしかないし、クロちゃんに目隠しさせて有吉さんとおぎやはぎが責める・・・
あーいけるいけるって。でも、その計算ってなんなんですかね。

高須

それはね、人の本質をどんだけ見ているかだと思う。
人の性格を。たぶん藤井はヤラしいから(笑)、「この人こういう所あるよな」ってイタい所突くのよ。
人の性格もしくは技術力、世の中から見られているイメージ、それを複合的に考えて、「こういう事は出来る」「こういう事は、喋れるかな」「こういう時にいい表情するな」ってイメージがすごくできる人とできない人ってやっぱいてるのよね。
で、(藤井は)細かい所好きやから「こいつあの時こんな反応したから、これイケるな」とか、どっかでこう自分の中でキープしてるんやと思う。

藤井

いや確かにそうですね・・・
小峠さんと澤部くんのやつもあの2人でしかないですから。

高須

他じゃでけへんから

藤井

あれは特殊な企画だし、小峠さんが絶対必要だったんですよね。
“責め顔”と“受け顔”がどっちもあるっていう。

高須

そうそうそう。

藤井

負けを食らっていても面白いし、責める時も面白いじゃないですか。

高須

だからその、“負け顔”と“勝ち顔”って昔はなかったそんな表現。
“負け顔”“勝ち顔”っていう時に「ああそうか、さんまさんって負け顔持ってへんなー」とか「松本は持ってて、浜田はもってない」とかそんなん世の中の人はまだわかってない。
でも、演者はわかってる、作り手も理解せなあかんよね。
めちゃくちゃ必要な能力やと思うな〜これって。

藤井

そこは別に理屈じゃないですもんね。

高須

理屈じゃない。人間の本質を嗅ぎ取る力やね。
松本に恋愛の話させたら絶対モゴモゴ言うとかね。
「このへんまでは喋れるけど、これ以上行ったら黙ってしまうな」っていう人の踏み込み方の距離感ってあるやんか。

俺よく言うんやけど、明石家さんまさんと淳は恋愛の話ガツガツ行けるんやけどたぶんあんな話、たけしさんとか松本とかって出来へんっていうのとどんどんふっていくと、あの2人は開き直って(話を)風俗の話にすり替える。
極端に風俗の話まで持っていかないと、恥ずかしくてやってられへんねやろね。

たぶん有吉もそうじゃないかなぁ。風俗に持っていかれへんともうその間が喋られへん。そらキュンキュンした話喋れなんて絶対ムリ。
でもさんまさんなら(恋愛話が)大好きやから、「いやぁ~」って言いながら喋るんやけど。

芸人だからなんでも話せるわけじゃない。
だから人によって話せる内容が違うってことを理解しないとね。
日々テレビ観てるとか、喋りながら嗅ぎ取っていくしかないからね。

加地君もそうやもん。『アメトーーク!』やる時に「〇〇芸人」って括ったのは、たぶんそういうのを見ていたからやと思うねん。
加地くんって、マネージャーに前日の仕事や、当日の収録の前にどんな仕事があったか聞くんだって。
疲れてるとか、前がロケなら、この企画はどんなテンションかなと自分でシミュレートしておきたいんだって。これって凄くない?

藤井

へ〜、そうなんですか。

高須

それでどの位置に芸人さんを座らせるとか、時に場合によっては役割も変えるらしい。確かにその疲れ具合で、トークのグルーブが違う気もするしね

藤井

そうですね。特にこうやって、お笑いの人たちとやっていると。
「この人には(意図を)ここまで言った方がいい」とか「この人には全く言わない方がいい」とか「全部言っても大丈夫・・・いや半分にしておこう」とか。

高須

あるある。

藤井

「ここだけ隠しておこう」みたいなことが。

高須

説明の足し引きね。
それも難しいよな~。

藤井

そこはオンエアにも映らない部分ですし。

高須

それはもう技術やなー。何回もやって、その人のスキルを理解した上で解ける演出の連立方程式みたいなもんやなそれはテレビマンしか無理やなぁ。映画の人は無理やね。
映画の人は「こう演じよう」って事やもんね。

藤井

バラエティ作ってる人独自のスキルかもしれないですね。

高須

その人の行動学みたいなもんやん。
こうなったらこう動くから、ここまでしか教えたらアカンとか。
最終的に自分がイメージした笑いを起こさせるために台本はあるけど、演者一人一人に細かな振り分けをして本番に挑むわけで。
それもそうなるであろうという勘でしかないもんね
それって技術やなぁ。

藤井

現場で学ぶしかないですから、バラエティの現場でやっていないと。

高須

無理やねぇ。映画監督にはちょっと難しいとこやね。
あっ、でもドキュメンタリーとかではやってるかな。

おまけ

そんなこんなで、8時55分ですので。
(藤井は9時からTBSで会議)

藤井

あ、最後に一個だけ。高須さんに伝えておきたいダウンタウンさんのちょっと興味深いやつがあって。

高須

ほぉほぉ。

藤井

リンカーンの初期の頃、何か選んでハズレを引いた人が罰を受ける、みたいな運試しのロケがあって、最後ダウンタウンが2人で、冬の海に裸で入ることになったんですよ。

高須

あったあった。

藤井

あの時に裏でダウンタウンがハズレ引きました、じゃあダウンタウンが海入ります、スタンバイしましょう。ってなった時に2人の意見が食い違ったんですよ。

高須

はいはい。

藤井

松本さんは普通に、海に入っていくところから見せる。
で、浜田さんはカットバック、アタリのメンバーは温泉に入ってるって状況があったので、ポンと画がきたらもう海に入ってる方がええんちゃうかと。

高須

うわぁ、全く違うなぁ。
でもどっちもあるけどね。

藤井

そうなんですよ。どっちもそんなのないよって話じゃないし。
単純に好みの違いって言うか、趣味の違いで。
で、スタッフが2人の間を往復する訳ですよ。

高須

大変な往復やな!

藤井

でも「むこうが逆を言ってる」とは言わないから。

高須

誰かが背負わなあかん。

藤井

どっちが寄せてくれるかなって探りながら、何往復かして。
ただ、何回か行ったらお互い「あっちが違うことを言っているんだな」ってなんとなく気付くじゃないですか。
でも、どっちも折れてくれないから、結構らちがあかない感じになっちゃって、で、そしたら急に浜田さんがツカツカツカって、松本さんの楽屋バンッって開けて「松本これ、こっちでエエやろ」って。
そしたら松本さんが「おお・・・」って折れるっていう。

高須

ええ゛~!!

藤井

そこやっぱ浜田さんの方が強いんだ!って。

高須

最終的には。

藤井

面と向かったらそっちが勝つんだって。

高須

へぇ~。面白いね。俺、見てない顔やわ。
ガキ使では逆なんやけどな。

藤井

ちょっと面白かったし、へぇ~っと思いましたね。
直接対決は浜田さんが勝つという。

高須

昔『リンカーン』で、それこそ新喜劇出る時があって、キャイ~ン出てきて、雨上がり出てって、さまぁ~ず出てって、松本がちょっと緊張し出すわけ。
なんかイヤな空気が伝わってくるんやろな。
浜田は袖で、ずっと普通に、舞台を見てんねんけど、松本が浜田の耳元に何んかつぶやきに行くわけ。
そうすると、振り向かないまま浜田が「うん、わかった」って一言言うシーンがあるねんけどそれが妙にカッコええのよ。

「ああ、そうやな、基本はこうやったな」って思って。
昔からネタやる時に。こんな感じやったなぁ~と思って。
最終的に浜田の方が度胸あるんやろな。
極論言うと、松本というボケがおったらどうとでもなるって言うのがあるんやろうな。

藤井

浜田さんがいないとやっぱり現場がしまらないんですよね。
人数が多い時なんか特に、浜田さんがいないと結構ズルっとなるんですよね。
もちろん、面白い事や発言なんかはたくさんあるんだけど、やっぱり浜田さんがいないと。

高須

そうやな〜。
最後に芯食った話になったね。
長時間、ありがとうございました。ちょうど9時。

藤井

ありがとうございました。

おわり

ディレクター

藤井健太郎 さん

1980年生まれ、東京都出身。立教大学卒業後、2003年にTBSに入社。『リンカーン』『ひみつの嵐ちゃん!』などの人気番組のディレクターを経て、『クイズ☆タレント名鑑』『テベ・コンヒーロ』等を演出・プロデュース。現在は『水曜日のダウンタウン』の演出を務める。

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